おまけ。


 それから1年後。
「とうとう、勝負を受けてくれるのだな」
「誰でも門の前やら植え込みの影やらで不意打ちをしようとストーキングされれば、そうするわい。この変態め」
 場所は天空城の中庭。何故か急ごしらえで設えられたリングの上には、世界の支配者と上級魔族が睨み合っている。絵面的には真面目に見えなくもないのだが、何処かまぬけな雰囲気なのは周りの観客がいつものメンツな所為もあるだろう。
 デュランが勝負形式をこんな形にしたのには訳がある。竜王がタイマン勝負を引き受けたのは良いのだが、周りの連中――というか、主にハーゴン――が「生死に関わる対決は認めない、するつもりなら”全力で”阻止するからそのつもりで」と宣言した事による。世界の支配者がそうコロコロ変わられては色んな意味で困るのだ、とも。成程、その言い分ももっともだとデュランもそれを了承して、ルールあり、リング上での三本勝負を引き受けるに至ったのであった。
「おいちゃーん、がんばれぇ!」
「貴男、無茶しないで。お腹の子に障るから……」
「なら、見なきゃ良いのに……第一回戦はレスリングですからね」そう言いながら僧服の男は、面倒臭そうにカナヅチでベルを叩いた。
 カーン。
 ベル、もといゴングが鳴り響くと同時に、電光石火のパンチがデュランの拳を捉えた。すかさずハーゴンはベルを連打する。
「殴打による反則負け!」
「貴殿、本気でやる気があるのかーっ!」デュランは殴られたという事実よりも、いきなりの反則負けに頭を茹だらせた。
「わ、悪かった悪かった。未だルールを把握しておらぬのだ。で、では次はボクシングにしよう。ボクシングならパンチも構わぬだろう。オルフェ、グローブ寄越せ」
 そうまで言われては引き下がらざるを得ない。デュランはしぶしぶ勝負を引き受けた。何せ、500年以上の時を経た対決なのだ。ここは引き受けて貰えただけでも有難いと思わねばならない。デュランは次の戦いに備えてグローブを嵌めた。
 カーン。
「おごわっ!」
「来たー後頭部にいきなりのハイキックーっ! って、反則だからそれっ!」
 カンカンカンカン。勿論反則負けである。
 いきり立つデュランを宥めて、今度こそキックはなしにすると竜王は平謝りに謝った。次はテコンドーにしよう。世界の支配者に謝られて悪い気分はしない。デュランはくさった肉でも食べたような心持ちで、しぶしぶ勝負を続けることにした。
 カーン。
 ぼしゅっ。がすっ、どすっ。
「おーっと! 連続パンチ攻撃! って、やっぱり反則ですからっ! デュラン選手、反則負けで優勝ーっ!」
「こんな戦いがあるかーっ!」ハーゴンに差し上げられた腕を振り払って、デュランは竜王に詰め寄った。「勝負しろ勝負ッ!」
「ええい往生際の悪い奴だな。こちらが負けたのだから良いではないか。好い加減認めろ。お前の勝ち。はい、行った行った」
 納得いかんとリング上で暴れるデュランを尻目に、竜王はこそっと囁いた。
「やはりあの作戦は失敗だと思うが……」
「しょうがないでしょ、貴男がまた大怪我でもしてみなさい。誰が貴男の机の上で肥やしになっている仕事を片付けてくれるって言うんですか」
 竜王はハーゴンの顔を指差した。
「やっぱり貴男はデュランに殺して貰いなさい」
「人でなし」
「貴男に言われる筋合いは御座いません。精々、満足するまでデュラン殿と遊んで差し上げて下さい。あ、未だ貴男より賜りましたお仕事が残っておりますので、私はこれにて失礼」
 背中に罵声を浴びせられながら、元・大神官はイソイソとリングを降りて走り去っていった。

*コメント
 特になし。ないったら。

DQi目次へバシルーラ!