DQi外伝 サボテンとバントライン
ボクハ コノヨヲ ニクム。
ダカラ、セカイヲスクウンダ。
のんびりやのトンヌラ少年は、十歳までは幸せだった。強大な国家サマルトリアの王を父に持ち、神童と謳われ、優しい母とおませで想像力の活発な妹ラーニャに囲まれ、広大な領土と王権を約束されていた。それがトンヌラの世界の全てであった。
十の時、母が死んで、世界は少しおかしくなった。
少年は奇形持ちだった。トンヌラには生まれつき、頭に二本の小さな角が生えていた。小さな頃は目だたなかった角も、そのころには頭にかぶり物をしないとはっきり解る程になっていた。だから少年は母の言いつけに従って、どこに行く時も決して帽子を手放さなかった。だから、父の態度がよそよそしくなったのも、妹のラーニャがしょっちゅう父と喧嘩して、父に度々ぶたれるのも全て、この角の所為だとトンヌラは思った。
それでも、少年は世界を憎んだりはしなかった。
十四の春が来るまでは。
破壊の神を崇める教団が、ムーンブルクを攻め落としたという一報が来たその日までは。
トンヌラは夜いそいそと支度を終え、出発の準備が済んだのを伝えるべく、喜び勇んで父の部屋へと向かった。トンヌラは父に旅立ちの命を受けたのが嬉しくて仕方なかった。未知なる旅に胸ときめかせ、己の先祖が歩んだ栄光の旅を追体験できると、伝説に己が名を刻む日がいよいよ来たのだと、そしてその好機を父自らが与えてくれたのを誇りに思い、つまり無邪気に信じていた。トンヌラは己の受けた厚恩に報いるべく、必ずや邪教の徒を殲滅してくれようと心中に誓ったのだった。
しかし、トンヌラが部屋の扉に手を掛けた時、
「しかし陛下、トンヌラ殿下を旅に出すなど、余りに余りでは御座いませぬか。王子は魔術に長けているとはいえ、まだ元服も済ませておりませぬ。そんな王子を供も付けず、貧相な装備で一人旅に出すなど、無謀極まりませぬ。トンヌラ殿下は仮にもサマルトリアの王位第一継承者ですぞ」
トンヌラは聞いてしまった。
「ふん、ちょうど良いではないか。あんな頭に角の生えた化け物、のたれ死んでくれたくらいでちょうど良い。まさか、そなた余があのガキに、あの邪教軍団を殲滅出来ると信ずべき何らかの理由があると本気で思っているなどと信じているのではあるまいな?」
聞くべきではなかった一言を、
「で、ではそれでは、ラーニャ王女に王位を継がせるおつもりなので……? 王女殿下はアレフガルド王太子に輿入れさせる予定では」
聞いてしまったのだ。
「馬鹿め、何故ラーニャに王位を継がせる必要があろう。あれはアレフガルドを将来併合する為の駒だ。……王位継承者など、王が死にでもせねば別に必要あるまい?」
バケモノ。
王が、死ななければ。
全ての謎が氷解した。ラーニャが父と言い争うようになったのも、父が己を死への旅路へと放り出したのも、全てはこの為だった。
父は、子供らを愛してなんかいなかったのだ。
父は、何らかの不死へといたる手段を見付けたのだ。
トンヌラはその日の内に、父にも妹にも会わず、なけなしの金目になりそうなものと貧相な武具を身に着けて城を出た。従者など付けられても、後から寝首を掻かれるのが精々だったから。
実際的な頭の動きと、心とが常に調和を描くとは限らない。トンヌラの場合もそうだった。勇者の泉にあってなお、トンヌラの心は事実を受け容れられないでいた。
父に見捨てられ、憎まれて死を望まれているなんて。
昔はみんな、仲良かったじゃないか。
違う、母上が生きていたから、猶予されていただけなんだ。
何でだよ。
何でだ。
トンヌラは祈った。
父さん、父さん。何でアンタは僕を見捨てたんだ。
しかし だれも こたえてはくれなかった。
トンヌラ少年は泣いた。泣いた。泣いて泣いて、それから冷たい泉の水で顔を洗った。
すっきりした。そして、笑った。
僕は死なない。
絶対、死んでなどやるものか。
父上をがっかりさせる為なら、僕は神だって殺してやる。
少年は、世界を憎んだ。
そして、世界を救う旅に出た。
*コメント
この作品はもろバレだと思いますが、筋少の曲からタイトルを取りました。文章も歌詞を結構意識して(似ては居ませんが)書きました。一日で――むしろ二時間で書き上げました。閃けば楽勝。閃かなければ苦悶。
それにしてもDQiのキャラはどいつもこいつもエディプスコンプレックスの持ち主ばかりですね。やれやれ。後運命に逆らって足掻いて失敗する連中ばかりですわ。次はむしろ、運命を甘受して滅びて行く連中も書いてみようと思ってます。